末那や蘭子とは違って、自分が変わったらよくないことが起きるかもしれないという不安を持っているのだ。


ならば、変わらないように努力すればいいだけの話だ。


無理に変わろうとするんじゃなくて、今のままがベストだからと自分に言い聞かせて、なんてことない平凡な生活を送ることが一番いい考えだ。


末那の言葉で自信をつけたわけじゃないけど、私は私自身の生き方を貫きとおすんだ。


自分が納得のいく、満足のいく結果につながるように頑張ればいい。


こくん、と力強くうなずいたそのとき、信号が青になり、青になるのを待っていた人たちがぞろぞろと歩きはじめた。


はっと我に返って歩きだすが、ミカも私と同じ交差点を歩いていることに気づいた。


ミカの家は反対側の交差点を通らなければ見つからないはずだ。


「ミカ、家こっちだっけ? 家に帰るなら、反対側の交差点を通らなきゃいけないんじゃないの?」


頭の上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいることに気づかないフリをして首をかしげる。


だが、ミカは我に返るどころかむしろ笑顔を見せて私の肩に腕をまわした。


「ふふん。じつは高2になったときに引っ越したんだ。しかも茅乃の家の近くに。だから今住んでる家の近くまで一緒に帰れるんだよね」


引っ越した? 高2になったときに?


そんな話、はじめて聞いた。


きっと私には内緒にしていたことだろう。


内緒にされたのはちょっとショックだけど、家の近くまで一緒に帰れるのは嬉しい。


「そうなの? 知らなかった」


「へへ、茅乃をびっくりさせようと思ったんだ。嬉しい顔見たくてさ!」


「じゃあ、私に今まで言わなかったのはわざと?」


「もう、人聞き悪いな。もっといい言い方で言ってよ! そうであることに変わりはないけど」


家までの道をミカと並んで帰る。


夢みたいで信じられない。


ミカの笑顔を思い出のひとつにすることができるのなら、このままでもいいかなと思う自分がいた。


このままでいれば、誰も傷つかずに済むから……。