影と闇

呆然としてその様子を見送った数秒後、近くに立っていた別の店員さんがにこやかな笑顔で私を見た。


「このマネキンが着ているコーデをお求めになりたいのですね? かしこまりました。少々お待ちください」


この店員さんはここで働きはじめてだいぶたつのか、みごとな対応を見せる。


さすがベテランだと感じてしまう。


さらに驚かれたところで、店員さんがさっさとどこかへ行ってしまった。


しばらく立ちつくしたが、うしろから肩を叩かれたのではっとすぐに我に返った。


予想どおり、私の肩を叩いたのは末那だった。


「すごいよ、マネキンの服をゲットできるなんて! やっぱり来てよかったね!」


いや、まだゲットできるとは決まったわけじゃないんだけど。


それにマネキンの服をゲットできることがラッキーなのかどうかがそもそも謎だ。


いくつか疑問が残るが、来てよかったとは思う。


心の中でそうつぶやいたと同時に、先ほどの店員さんが駆け足で戻ってきた。


「お待たせいたしました。ちょうど在庫がございますのでご用意させていただきました。それではレジのほうへ」


「あっ……はい!」


末那の手を軽く振り払うように、慌ててその店員さんのうしろ姿を追いかける。


ちょうど在庫があった、か。よかった。


自分ではあまり運がいいとは思ってないから在庫がもうないと言われるのではないかと内心ヒヤヒヤしてたけど、安心した。


来てよかったという気持ちが空気の入った風船のように大きく膨らんでいく。