影と闇

これに対してなんて言えばいいのかわからずにあたふたしていると、たまたまこちらに来ていた別の店員さんが姿を現した。


「あれ? どうしたの、こんなところで固まって」


「あっ、じつは……」


どうやら私が話しかけた店員さんは、まだここで働きはじめたばかりのようだ。


言葉や行動がイマイチ理解不能だと言ってもおかしくない。


しかもよく見ると、その店員さんの胸もとにつけられたネームタグのところに初心者マークが描かれてある。


どうりで話が進まないと思った。


だけど、店員さんふたりの様子をじっと見ることしかできない。


「どうしたの? なんかあった?」


「いや……じつは、こちらのお客様がマネキンの服と靴を買いたいとおっしゃってまして……」


若干早口に聞こえたのは、まだ接客業に慣れていないせいだろうか。


意味もなく両手をいじっているその店員さん。


「……はぁ。あのね、そういうときは迷わず店長に確認するって言えばいい話でしょ。ここでウダウダしたらお客様の怒りを買うことになるのよ」


「すみません……」


別の店員さんに呆れがちに説教され、がっくりとうなだれるその店員さんがやけに小さく見えた。


「まぁいいわ。今回は私が対応するから、あなたは在庫調べをしてくれない? あそこは人手が足りないから」


「はい、わかりました」


そう言うと、その店員さんは慌てて逃げるように奥のほうへ行った。