影と闇

どうしようかと迷ったが、店員さんが笑顔を浮かべてうなずいたので、末那に自分も買い物をしたくなったと説明した。


自分の買いものをしにきたから、勝手に買い物しないでよ、と言うのかと思ったが、末那は怒るどころか満面の笑みを見せた。


「そうなんだ。だったら茅乃ちゃんも買い物するといいよ。この服屋さんは私の好みのものがいっぱいあるけど、茅乃ちゃんの好みもあるんだね」


よかった、末那が怒らなくて。


末那は普段怒ったりしないから安心しているけど、いつか怒るんじゃないかといつもヒヤヒヤしているんだ。


いつもニコニコと笑顔を見せている人ほど怒るときが怖いという話をよく聞くせいだろうか。


それにしてもラッキーだな。


末那と一緒に来た服屋さんで、好みの服を買えるなんて。


服屋なんて今までの私にとって身近なものではなかったから、こんなにも嬉しく感じるのだ。


ニコニコと笑顔を向ける末那に曖昧な笑顔を返し、店員さんに視線を戻した。


「ダメですかね、マネキンの服を買うのは……」


さっきまで末那に見せていた笑顔を失ってしまい、店員さんの表情と反応にうまく対応できなくなる。


これは間違いなくダメなパターンだ。


店員さんの表情には買うことを許さないという気持ちが入っている気がする。