影と闇

背中に変な汗が流れていくのを感じながら、慌てて言葉を加えた。


「ご、ごめんなさい! べつに悪い意味で言ったわけじゃなくて。本当に感謝してるっていう意味でしゃべって……」


言いたいことを言いきる前に、彼女が私の言葉をさえぎった。


「いや、そうじゃないよ。なんで私のこと名前で呼ばないのかなと思って」


そういうことか。


彼女が呆然としていた理由が今ようやくわかった。


でも私は彼女の名前を知らない。


仮に彼女の名前を知っていたとしても、ほんの数日で忘れてしまう。


「名前?」


「そう! せっかく修学旅行で同じグループになったんだから、仲よくしようよ。私のことは理子(りこ)って呼んで!」


突然だな。


でも、彼女の言うことに反論する気はないからうなずくしかないけどね。


とりあえず、修学旅行でのグループ仲間として仲よくしておこう。


彼女と仲よくなってからのデメリットはないだろうし、メリットが増えるかもしれないし。


「い、いきなり呼び捨てはできないよ……。でも“ちゃん”ってつけて呼んでいい?」


さすがに今日はじめてしゃべったクラスメイトを呼び捨てで呼ぶことはできないので、そう提案した。