影と闇

『あっ、ごめんなさい！ 拾ったんですけど、いろいろ考えてたら、つい……』


我ながらヘタな言動だと思った。


私が地味で目立たなくて、口ベタであることが末那にバレてしまった。


そう思い、落ちたものを末那に差しだした。


こういうときに相手が蘭子だったらな、と心の中でため息をつきながらつぶやく。


いじめられている末那のことだから、私に怒るのかと思いきや。


『いいえ、いいんです。教科書と参考書とノートを拾ってくれただけで嬉しいです』


そんな声が頭上から降ってきて、顔をあげる。


私の予想に反して、末那は天使のような微笑みを浮かべていた。


末那の笑顔に胸が痛くなる。


満面の笑みを浮かべる末那がいじめられているという事実を受け入れたくなかったのだろう。


心の中でそうつぶやき、眉をハの字にして末那を見ていると、向こうから蘭子が姿を見せた。


『ちょっと芦谷、せっかく遊んでやってんのになんで茅乃に拾わせようとしてんの？ あんた、本当に頭悪いよね』


つかつかと歩み寄り、私が持ってた教科書などを奪うと、蘭子が呆然とする末那をキッと睨んだ。