影と闇

だが、すぐに我に返った。


ノートを大事そうに抱える姿を見せたら、廊下を歩く生徒たちに不審者を見るような目で見られると気づいたのだ。


慌てて落ちている教科書と参考書を拾いあげる。


落ちたものすべてを拾ったあと、ひとりの女子生徒が焦った様子で駆け寄ってきた。


『すみません! それ、私のです!』


彼女の言葉を聞いて、私はすぐに『あぁ、この子が芦谷末那か』と思った。


正直、末那は蘭子とはまったく違うタイプの子だと思っていた。


蘭子は派手な容姿で絶対的な権力を持っている。


だけど末那にはそんな雰囲気は感じられなくて、最初のころはどうして末那が目立っていたのだろうと疑問を覚えた。


末那は自分のクラスの女子数人にいじめられているから目立っているんじゃないかとさえ思ってしまったほどだ。


女子たちが嫌悪感を持つのは蘭子のような派手な子ではなく、末那のようなおとなしい清純派女子のほうが多いとはよく聞く。


だからといって、こんな嫌がらせをするなんて。


持っていた教科書などを握る手にさらに力が入り、折り曲げてしまいそうになる。


だがまたすぐにはっとして、末那に一生懸命作った笑顔を見せる。