もしこのまま忘れて向かっていたら、心の中の自分になんでなにも持たずに家を出たんだと問いかけることになる。


もの忘れはひどいほうではないけど、最近になって記憶が抜け落ちたのではないかと思うくらい、思い出せないことが多くなった。


自分の記憶力の低さに呆れてしまう。


深いため息を吐きだしたそのとき、数十メートル先で見覚えのある人物が私に向かって手を大きく振っているのが見えた。


ミカだ。


服屋さんに寄った帰りに見た姿が今の姿と一致しているから。


きれいな茶色い髪が風に吹かれるのをぼんやりと眺めながらミカのところまで歩み寄る。


「ミカ、ひさしぶり。元気だった?」


「元気だよ! 茅乃も相変わらずだね!」


胸の前で手を振り、喜びをアピールするミカ。


この明るい雰囲気は、やはり中学時代にはなかったものだ。


私も見た目を変えれば、ミカみたいに顔も性格も明るくなれるのかな?


なんて心の中でつぶやき、持ってきた紙袋のうちのひとつをミカに渡す。


「はい、これ」


「ん? なにこれ」


「ほら、前に修学旅行に行くって話したじゃん。修学旅行先で買ったお土産。ミカもほしいだろうなって思って買ったんだ」


「マジで? 超嬉しいんだけど!」


キラキラと目を輝かせてさらに喜ぶミカ。