影と闇

不思議そうな顔をしながらも先生が「そうか?」と言って正面に向き直った直後、肩を勢いよく掴まれた。


見ると蘭子が焦った表情で私を見ていた。


「なんでせっかち先生に言わないのよ。相談したら解決するかもしれないでしょ?」


蘭子の言うことは間違いではない。


間違いではないが、クラスの騒ぎの的になりたくない。


先生に相談すればすぐに騒ぎが広まるし、他の生徒も私を心配する。


息を小さく漏らし、焦点の合わない蘭子の目を正面から受け止める。


「蘭子、今は修学旅行中だよ。2年生全員が楽しみにしてた行事を嫌な思い出はしたくないの。私だって不安だらけで過ごしたくないもん」


そう。


楽しみにしていた修学旅行が、私のせいで嫌な思い出になるのは絶対に許されない。


思いっきり楽しむには、不気味なメッセージを意識しないようにするしかない。


「だから誰にも言わないで。修学旅行を不気味なメッセージのせいで台なしにはしたくない」


真剣な目つきでそう言うと、蘭子は不満そうな顔をしながらもうなずいた。


言葉をのんでくれた蘭子に胸を撫でおろす。


とりあえずこれでいいよね。


高校生活で一度しかない修学旅行を楽しい思い出にするためにはこうするしかない。


蘭子にはつらい思いをさせるかもしれないが、せめて修学旅行が終わるまでは我慢してほしい。


心の中でそうつぶやきながら、スマホを胸ポケットに入れた。