影と闇

傘を広げようとした手を止め、不思議そうな顔で首をかしげる蘭子。


「茅乃、どうしたの? 早くしないと集合に遅れちゃうよ」


「あの、じつは……」


言いにくい。


ここで私が本当のことを伝えたら、ふたりはどんな反応を見せるんだろう。


そんなバカなことで時間かせぎをしている場合なんかじゃない、と怒られそうだ。


だけどグズグズしてなにも言わないことも、時間をロスさせる原因になる。


いつの間にか作っていた拳にさらに力を込めて、下唇をキュッと噛む。


なにか言いたそうな理子ちゃんの顔が目に映ったのを見計らって、私はふたりを引き止めた理由を簡単に説明した。


ヒヤヒヤする。


怒られそう、バカにされそう。


説明したあとすぐに気まずくなって目をそらした。


だけどその数秒後、蘭子の明るい声が頭上に降ってきた。


「あはっ、なんだ。そんなことで私が怒るわけないじゃん!」


その直後バシバシと肩を叩かれる。


普通なら痛みを帯びるはずの肩だが、どういうわけだか痛みはまったくやってこない。


たぶん蘭子に怒られずに済んだと心が安心してるからだろう。


おそるおそる顔をあげると、そこには満面の笑みを浮かべる蘭子と理子ちゃんの姿が見えた。


口にはしていないが、理子ちゃんも蘭子と同じことを思ったのだろう。