影と闇

どうやら自分たちの頭の中にそのアイデアは浮かんでこなかったらしい。


ずぶ濡れ状態の理子ちゃんが蘭子の傘の中に入ったあと、顔についた水滴をハンカチでぬぐう。


「さすが茅乃、ナイスアイデアね。ていうか、この近くにコンビニなんてあるの?」


片手に持っている周辺の地図をまじまじと見つめながら目を針のように細める蘭子。


ここが今、どの場所にあるのか見つけられていないようだ。


それもそのはず。


私たちがそんな会話をしている最中にも雨はさらに激しさを増していき、人の姿が見あたらないほどになってしまったから。


「あるよ。スマホに最新の地図アプリをダウンロードしてるから、今いる場所の周辺の情報が詳しく出てくるんだ」


そう、修学旅行当日の3日前、役に立つのではないかと思ってそのアプリをダウンロードしたのだ。


服屋に寄った帰りにミカに教えてもらったというのもあるけど。


心の中でそうつぶやいたそのとき、不意に数日前の会話が頭の中でよみがえった。


『5日後に修学旅行? いいな、私の通ってる高校なんか修学旅行ないよ。あっ、いきなりだけど今思い出した』


『なに?』


『何か月か前に知り合いに聞いたけど、今はやりの最新地図アプリがあるんだって!』


『そうなの?』


もともとトレンドなどの情報にうとい私は、それがあること自体知らなかったのだ。


『それ、私も使ってみたけど便利なの。だから修学旅行に行く前にダウンロードしたほうがいいよ。役に立つし!』