☆☆☆
バスを降りて数時間がたった。
グループのメンバーとグループ行動をしているなか、蘭子がバッグから慌ててスマホを取りだす。
「やばっ! 次の集合時間まであと30分しかない!」
理子ちゃんの耳にも蘭子の声は響いたみたいで、手に持っていたソフトクリームを落としそうになるくらい目を見開いて驚いた。
「えっ、本当⁉︎」
「うん。ここ、次の集合場所まで歩いて40分はかかるから間に合わないかも」
「じゃあ、急がなきゃ!」
驚きがうつったかのように、慌てはじめる理子ちゃんの声。
その声で、私たちの前を歩いていたふたりの男子は向こうへと駆けだしていった。
こちらのほうを見もせずに走り去ってくふたりのうしろ姿が豆粒よりも小さくなる。
彼らの様子に理子ちゃんが頬を風船のように膨らませる。
「なによもう、ちょっとは私たちのほうも見なさいよね、まったく」
慌てていたのが嘘みたい。
眉をつりあげて、走り去っていくふたりをじっと睨みつけている。
隣から見る理子ちゃんの横顔が、つい数時間前にバスの中で見た末那の顔と似てる気がして、一瞬だけ寒さに襲われる。
鳥肌が皮膚を覆う感覚がするが、理子ちゃんの横顔には末那のような暗い雰囲気がないとわかるとすぐに安心できた。



