影と闇

たとえ自分の嫌いな女子でも、異常な行動を見せられたとなるとさすがに気になってしまうらしい。


蘭子も気になっているんだ。


楽しそうに『負のオーラ出まくり〜』って言っていたけど、思っていた以上に負のオーラを感じたのだろうか。


よく見れば額に大粒の汗を浮かべている。


うしろを見たと同時に掴んだ肘かけが折れてしまいそうになる。


このバスの肘かけは頑丈なものになってるらしいのだが、蘭子の握力は信じられないくらい強い。


それでも必死に気持ちをおさえている。


私がじっと見つめたせいか、私の視線に気づいて慌てた様子で顔色を戻す。


慌てて顔色を戻したと同時に、蘭子がさっと手をあげて先生の視線を自分に向かせた。


「せっかち先生、芦谷のせいで気分が悪いんですけど」


自分の気持ちを先生に訴えた蘭子だけど、いつものように言葉に勢いがない。


額から流れている大粒の汗の存在にも、まったく気づいていない。


バス内で気づいてるのは私だけのようで蘭子以上に顔色の悪かった先生は蘭子のほうを見もせずにつぶやく。


「鹿目、朝から気分が悪いのは先生も同じだが、それは芦谷のせいではない。お前は修学旅行を楽しみたくはないのか?」


先生もまた顔色を戻しているが、細かい部分は隠しきれてない。


だけど、修学旅行という言葉を聞いた瞬間、蘭子が「うっ」とうなった。


他のクラスメイトも気まずそうに末那から目をそらして正面に体勢を戻す。


「お前たち、修学旅行の計画を積極的に取り組んでいたではないか。修学旅行が終わるまでそんな暗い顔をするな。先生も楽しみにしてたからな」


努めて明るく言った先生の言葉に、バス内の空気が少しだけ軽くなった気がする。


ただ私は、末那がいつの間にかこちらを睨みつけていることに気づいて、落ち着けなかった。