「もう冬になるな」

来週には竜王戦も始まる。
街並みの向こうに見える山々は、秋色を深めて、冬へと一歩踏み出しており、ふたりの頭上でも、見通しのよくなった枝の向こうに、見事な秋晴れの空が広がっていた。
それもほんのひとときで、すぐに冷たい雨の季節になる。

それでもあたためたい手があって、それに触れることを許されるなら、待ち遠しい季節だ。
アプリコットピンクの手袋は、今日もポケットに入れたまま。

「冬は嫌い?」

絡めた指をもっと深く結ぶように力をこめて、梨田はしっとりと深い目を香月に向けた。

「好きだよ」

真っ直ぐに受け取った香月も、少し赤い笑顔を返す。

「私も」


北国の秋は短い。
雨が降れば、それがそのまま雪に変わっていく。
まぶしいほどに明るい季節が、また今年もやってくる。








end