お米をといでも、じゃがいもを洗っても、指先には熱い血がめぐったままだった。

「テレビでも見てて」とリモコンを渡したのに、真剣な顔で将棋雑誌を読み耽っている。
その姿は、いつもコンビニの前で詰将棋を解いていた少年の頃とちっとも変わっていない。
ずいぶん大きくなったし、すらりと痩せて、メガネをかけて、雑誌の詰将棋なんてスイスイ解けてしまうようになっても。

「香月、これ解ける?」

少しにやにやしながら、梨田が雑誌のページを指さす。

「・・・・・・何手詰め?」

「仕方ないなー。五手詰め」

梨田の表情から、簡単に思いつく手ではないと読んで、香月はまず飛車を捨てる手から読み始めた。



焦がしてしまったカレーライスは、それでも香月にとって久しぶりにおいしく感じる食事だった。
ときどき焦げが浮いているのに、梨田は「おいしいよ」と言ってたくさん食べてくれる。
つられて香月もいつも以上によく食べた。

しかし、離れがたくて思わず握り返した手を、香月はすでに後悔し始めていた。


わずかに舌に残る焦げのような苦味が、香月の心にも広がっていた。