「かづちゃん、何か食べる?」

仕事の母に代わって看病に来てくれた祖母が、いただいた品々を並べる。
りんご、バナナ、みかん、キウイ、いちご、洋梨。
立派なそれらの隣に、チョコレートコーティングされたバニラアイスの小箱も並ぶ。
好きではないのに、この夏散々食べたもの。

「そのアイスは・・・」

「これ食べる?ちょっと消化に悪そうだけど、食べられそうなら食べようか」

断るタイミングを逃していると、小箱のフィルムを外して、コンビニのビニール袋に捨てようとした祖母が、その手を止めた。

「あら、お手紙?」

ビニール袋の中から折り畳まれた紙片を取り出す。
一目でノートの切れ端とわかるそれは、四つ折りに折られていて、確かに手紙のようだ。
端はビリビリに破られていて不格好なのに、吸い寄せられるように手を伸ばす。

カサリという音に続いて、罫線を無視した大きな文字が飛び込んできた。

『やく束は守もります。
はやく元気になってください。』


「これ、さっき男の子が持ってきてくれたの。梨田君って子」

「さっきって?」

「1時間くらい前かな。━━━━━はい」

アイスクリームを差し出す祖母に背を向けて、カーテンを大きく開ける。
結露で曇った窓ガラスを手でこすると、びっしょりと濡れて滴が手首を伝った。
ようやく見えるようになった窓に額をつけて、通りの向こうに目を凝らす。

ボタボタと降る雪は10cmほど積もっていて、1時間前の足跡どころか、さっき祖母が使ったばかりのスコップさえ見えなくなりそうだ。

「かづちゃん、また熱が上がるから!」

祖母の制止には生返事をして、降りしきる雪の向こうに、梨田の青いリュックを探し続ける。

「早く治して学校で会えばいいじゃないの!ぶり返したらもっと休まなきゃいけなくなるよ?」

しびれを切らした祖母の手によって、ふたたびカーテンが閉ざされる。
罪滅ぼしのような気持ちで、仕方なく口に入れたアイスは、チョコレートの周りが結露で濡れていた。