「乾、花音ちゃんとしゃべったのか?」

「え? ああ」

「……ふーん」



1度は、そうつぶやきながらうなずいたものの。

思うところがあって、俺はまた口を開く。



「……花音ちゃん、大丈夫だった?」

「は? 何が?」

「なんつーか、怖がってたりとか」

「はあ? 別に俺、怖がらせるようなことしてないし……フツーだよ」

「……そ」



花音ちゃんは、男が苦手だ。そしてそれを、乾は知らない。

だけど俺に対しては、最初の頃に比べると、花音ちゃんは以前よりずっと自然体で話してくれる。

そして見た目そんなに男臭くないけど、縦があって多少威圧感がある乾と、どんな内容だったにしろ、話せたというのは。

もしかしたら昼休みのあの一時が、いいリハビリにもなっているのかもしれない。



「………」



花音ちゃん、乾と話して。

あの、はにかんだようなカオで、笑ったのかな。

彼女の笑顔は、とても綺麗だから。

男が苦手でなければ、きっとたくさんの異性に好意をもたれていただろう。

いや、今でももう、十分にモテているのかもしれない。


……ああ、なんだろう、でも。



「長谷川?」



乾の呼びかけには、あえて応えない。

なんだか俺はおもしろくなくて、思考を振り切るように、飲みかけのペットボトルを一気に飲み干した。