「えーっと……こないだ長谷川が無理やりパンおごってた子だよね?」

「あ、えと、無理やりっていうか……はい。1年の、月舘 花音です」

「あー、ご丁寧にどうも。俺は2年の乾 慎太郎」



乾先輩はそう言って、小さく笑みを浮かべた。

以前までのわたしなら、こんなふうに自然な流れで、男の人と会話なんてできなかったけれど。

奏佑先輩と話すようになってからは、少しだけなら、男の人に対してこわがらないで普通でいられるようになったのだ。

……だけど乾先輩はどうして、わざわざわたしを待ってまで、話しかけてくれたのかな。


そんなことを考えていると、目の前の先輩は何か考えるように視線を空中に向けた。

そしてまた、口を開く。



「月舘さん、長谷川と海に行く約束したんだってね」

「え」



思いがけない話題に、思わず目を丸くした。

そんなわたしを見ながら、乾先輩はなおも続ける。



「実はさっき、俺も誘われたんだよね。俺はまだはっきりと予定がわからないからって、返事は保留にしてるんだけど」

「そう、なんですか」



……そっか。それで乾先輩、海のこと知ってたんだ。

身長152㎝のわたしを見下ろす長身の先輩は、やっぱりなんだか気まずそうに。

だけどはっきりと、こう言った。