「……花音ちゃん?」



何も言わないわたしを不審に思ったのか、先輩はわたしの名前を呼びながら、顔を覗き込んできた。

その先輩の行動にハッとするのと同時に、ドキリと心臓が高鳴る。

けれどもわたしは何でもないみたいに、笑ってみせた。



「ごめんなさい、ぼーっとしてました。それじゃあわたし、友達に声かけてみますね」

「うん、よろしくー。俺も誘っておくから」

「はい」



いくらお互いの友達がいるからって、先輩と海に行けることには、変わりない。

……でも。



「………」



……さっきまで、あんなにドキドキわくわくしていたのに。

奏佑先輩と、海に行けるっていうのに。

だけど先輩とふたりきりじゃないとわかっただけで、どこかがっかりしてしまっている、自分がいる。

ふたりきりならふたりきりで、緊張でおかしくなってしまうことも目に見えているのに。


すきな人の言動ひとつで、気分が浮いたり、沈んだり。

恋ってやっかいなんだなあ、なんて思ってしまったわたしは、奏佑先輩には気づかれないように、小さくため息を吐いた。