──ね、どう?

首をかしげて訊ねると、戸惑ったように、それでも花音ちゃんは、うなずいた。



「行き……たいです」

「よし、決まり。そしたら俺、部活休みの日決まったら教えるから。それまでちょっと待っててね」

「は、はい……でもあの、本当に、いいんですか?」



あくまで控えめな彼女に、俺はわざとらしく、ため息をついてみせた。



「あーあ、やっぱ花音ちゃんは、俺なんかとは海に行きたくないかあ」

「そっ、そんなことないです!! 行きたいです!!」



勢いよくそう言ってから、彼女は『あ、しまった』という表情で顔を真っ赤に染めた。

それににっこり笑顔を返して、俺はまた口を開く。



「楽しみだね、海」



そう言うと、花音ちゃんはほとんど俺が嵌めたような約束が不服なのか、むぅっと頬をふくらませる。

だけどやはり本心では“初めての海”が楽しみらしく、ふにゃりと破顔した。



「……はい」



きっとそれは、花音ちゃんの心からの笑顔だ。

その表情を見た瞬間、どくりと胸がざわつく。……けれど。

俺は気づかないフリで、開けっ放しだった窓を閉めるべく、手を伸ばした。


……俺がこの“約束”を後悔するのは、

もう少しだけ、後のこと。