「いいなあ……わたしも、海行ってみたいなあ」

「え?」



そのセリフに、今度は俺が、目をまたたかせる番だ。



「花音ちゃん、もしかして海行ったことない?」

「はい……小さい頃は、体も弱かったし。それからはもう、なんとなく……」

「……そっか」

「本物の海、どんな感じかなあ」



つぶやいて彼女は、再び『海の見える街』を弾きだした。

そのメロディは綺麗で、だけどそれを弾く花音ちゃんの横顔は、どこかさみしげで。

彼女の様子を眺めていた俺は、気づけば、口を開いていた。



「……連れてってあげようか?」

「え?」



俺の言葉に、手を止めて弾かれたように顔を上げる。

そんな彼女に、俺は笑みを浮かべてみせた。



「海。行ってみたいんでしょ?」

「あ、はい……え、でも、」

「泳ぐとなると、かなり遠くまで行かなきゃならないんだけどさ。というか、そろそろ時期外れだし。遊泳禁止のところでもいいなら、そこまで遠出じゃなくても、見れるところ知ってるから」