「わたしは……先輩に、救われました」

「……え?」



思いがけないセリフに、俺は目を見開いた。

彼女は必死に伝えたい言葉を探しているように、たどたどしく、話を続ける。



「あのとき……初めて、会ったとき。わたし、先輩にやさしくしてもらって、本当に、うれしかったんです」



初めて会ったとき。それはきっと、カラオケでの合コンで花音ちゃんが具合を悪くしてしまって、そして俺が介抱したとき。

そのことを言っているのだと気づいた俺は、慌てて首を横に振った。



「いやそんな、あれはそうやって何回もお礼言ってもらえるようなことじゃ……」

「違い、ます。わたしは、男の人が苦手で……だけどあのときの先輩のことは、全然、嫌な感じもしなくて」



めずらしく俺の言葉を遮って、彼女が続ける。



「先輩はあれから、こんなふうにわざわざわたしのピアノとか、話にも付き合ってくれて」

「………」

「それに、こうやって先輩と話をするようになってから、苦手な男の人とも、前よりはちゃんと話せるようになったりして」



そこで花音ちゃんは、ふぅっと小さく息をついて。