「……ま、いいわ」



思わずぼんやりしてしまっていたわたしを、しおちゃんの声が現実に引き戻した。

ふと目を向けると、やはりしおちゃんは、不機嫌そうに眉を寄せている。



「とにかく花音、アイツには気をつけんのよ。私がそばにいるときはいいけど、いざとなったら急所でもなんでも蹴っ飛ばして、ダッシュで逃げなさい」

「きゅ、急所ってしおちゃん……」

「……『“オトモダチ”になりたいわけじゃない』って戦線布告も、気になるしね」

「え?」



ぽそりと小さくつぶやいたしおちゃんの言葉が聞き取れなくて、思わず聞き返したけれど。

彼女は「何でもないわ」と言って、いつもの美人な笑みを浮かべた。

少し疑問が残ったけど、もうすぐ予鈴が鳴る時間だということに気がついて、わたしたちは踊り場を後にする。


しおちゃんと並んで教室に向かいながら、またわたしは考える。

──刹くんが話しかけてくるからといって、あの頃のように、容姿のことをからかってきたりだとか、そういうことは全然ない。

だけどさっき刹くん、「友達になりたくて来てるわけじゃない」って、言ってたし……まあ、その言葉にはちょっぴり傷ついたけれど。

一体彼は、どういうつもりで、ああやってわたしに関わってくるんだろう。