「アイツなんなのっ、シンドー セツ!!」



美人な顔をゆがませながら、しおちゃんは腕を組んでいまいましげにそう言い捨てた。

もとがいいだけに、そんな彼女は迫力満点だ。

明らかに殺気立つしおちゃんの様子に、わたしは苦笑しかできない。



「刹くん、ちょっと口が悪いから……」

「口悪いとかいう問題じゃないわよ、アレ。絶対アイツいっつも花音を守る私のこと、目の敵にしてるし」



結局女子トイレではなく階段の踊り場に落ち着いたわたしたちは、他の生徒たちの邪魔にならないよう壁に寄りかかって会話をする。

天井を見ながらイライラとつぶやいたしおちゃんは、それからくるりと、今度はこちらに顔を向けた。



「ねぇ花音。アイツほんとに、小学校低学年の頃同じクラスだっただけ、なの?」

「……うん」

「ふぅん……」



言いながらしおちゃんは、何かを考えるようにまた視線を空中に向けた。

気づかれないよう、わたしは小さく、息を吐く。

……男の人が苦手な、トラウマの原因の。

わたしをいじめていた男の子たちのリーダー格だったのが、刹くんだったなんて。

そんなこと話したら、間違いなくしおちゃん、刹くんのこと殴っちゃうだろうなあ……。