「よっ、花音」



ぎくり。

思わずそう感じてしまったことを表には出さないように、わたしはゆっくりと顔を上げる。

見るとそこには、笑みを浮かべてこちらを見下ろす予想通りの人物の姿があった。

机の上に置いた両手を、きゅっと握りしめる。



「……刹くん」

「なあ花音さー、今度1回街の方遊びがてら案内してくれない? 俺住んでたのもう7年も前だし、いろいろ変わってるだろうしさー」

「えっと……」



にこやかに提案されたそれにどう言葉を返そうか、考えあぐねていると。

そのタイミングで登校してきたらしいしおちゃんが、かばんを自分の席に置くこともせず、不機嫌さを全面に出した顔でつかつかとこちらに近づいてきた。



「ちょっとアンタ、朝っぱらからまた来てんの?」

「んだよ、俺はアンタじゃなくて花音に会いに来てんだけど」

「いい加減メーワクなのよ。アンタ他に友達いないわけ?」



わたしを間に挟んで、刺々しい会話を繰り広げるふたり。

もう何度目かもわからないその光景だけど、慣れないわたしはあわあわしてしまう。すると刹くんがちらりと一瞬こちらに視線を向けてから、口角を上げて言い放った。



「別に俺、花音と“オトモダチ”になりたくて、ここ来てるんじゃねぇし」

「ハァ?! ……ちょっと花音、トイレ行くよ!!」

「わっ」



言うが早いか、しおちゃんはぐいっとわたしの腕を掴んで席から立たせる。

そしてそのまま引きずるように、わたしを教室の外へと連れ出した。