たどり着いた駅で、わたしは改札の前で彼に向かって深々と頭を下げた。



「あの、ご迷惑かけて本当にすみません。ありがとうございました」

「いやいや、気ぃつけてね」



気にしないでとでも言うように、彼はひらひらと手を振ってみせた。

わたしは意を決して、ぎゅっとシフォンスカートを握りしめる。

緊張で、手のひらが汗ばんできているような気がした。



「……えっと、あの、お名前、は……?」

「俺? 長谷川 奏佑(はせがわ そうすけ)」



今さら名前を訊ねたわたしに気分を害した様子も見せず、いたってあっさりと答える。

じゃあね、と片手を挙げて、彼はもといたカラオケボックスへと戻って行った。


……たしか、今日の相手の男の子たちは、全員ひとつ年上だ。

それであの人、同じ学校だって、言ってた。



「……そうすけ、先輩……」



ぽつりと、自然に彼の名前が口から漏れる。

それだけでもう、まるで新しい宝物を見つけたときのように、胸がドキドキ高鳴った。


──16歳の、夏の終わりかけ。

わたしは生まれて初めて、『恋』という感情を覚えた。