「もしかして……転入生、とか?」

「ああ、ハイ」



俺の疑問混じりのセリフに、目の前の男はあっさりとうなずく。



「やっぱり。ジャージでもない私服で歩いてるから、何事かと思った」

「俺、明日からここに通うんすよ。それで今日は、ちょっと校内を見学に」

「へぇ。ちなみに俺は、2年なんだけど」



そこで目の前の男は、そこで初めて、少しの笑みを浮かべた。



「残念。俺、明日から1年4組です」

「そう。やっぱ年下か」

「え、『やっぱ』ってなんすか」



冗談っぽく軽口を叩くそいつは、そこでふと、何かに気づいたように視線を落とす。



「なんか、落ちてますよ」



言いながら屈んだ男が拾ったのは、紺色の表紙の、この学校指定の生徒手帳だった。

開いた状態で地面にあったそれを、そいつはそのままの状態で拾い上げ、そして中が見えるようにひっくり返す。

俺はハッとして、自分のズボンのポケットをまさぐった。