もうこれ以上、近づいてはいけない気がした。



「はあ……」



部活帰りの薄暗い道を自転車で走りながら、俺は人知れずため息をついた。

思い返すのは、今日の昼休み……例の空き教室での、花音ちゃんとの会話だ。



『花音ちゃんの男に対する苦手意識って、何がキッカケでなっちゃったの?』



本当はずっと、気になっていたこと。だけど訊いてはいけないと思って、今まで避けていた。

それがつい、なぜか今日に限って、ポロリと口をついて出てきてしまった。

きっと、彼女にとって良くない話だって。わかっていた、はずなのに。



『わたし、クラスメイトの男の子たちにいじめられてたんです』



そしてやっぱりその答えは、花音ちゃんの心の傷に直結するような内容で。

……嫌なことを、思い出させた。きっとあんなの、忘れたい記憶のはずなのに。

彼女の傷を抉ってしまったという自己嫌悪に陥り、俺はまたもや、深くため息を吐いた。