「けどわたしは、おじいちゃんの孫に生まれてよかったと思ってます。大好きなピアノを教えてくれたのはおじいちゃんだし、わたしの名前だって、おじいちゃんがつけてくれたものなんですよ」

「花音ちゃん……」

「小さい頃体が弱くて、あんまり外でも遊べなかったわたしが、唯一自由になれたピアノは……今でも、おじいちゃんとの絆の証なんです」

「……うん、そっか」



あまり人にしたことがなかった話に、内心ドキドキしていたわたしの視線の先で……奏佑先輩は、とてもやさしい表情でふわりと笑った。

その反応が予想外だったから、つい驚く。彼は椅子から立ち上がると、わたしの目の前までやって来た。

今度は見上げられる側になった先輩は、やはりやわらかい笑みを浮かべている。



「いい、おじいちゃんだね。いいなあ」

「はい。わたしにとって、一生大好きな人です」

「そっか。それに……花音ちゃんは、いいコだね」

「……へっ?!」



思いがけない先輩の言葉に、わたしはパッと顔を上げた。



「そっ、そんなこと……っ」

「ううん。つらいことがあっても誰のせいにもしないで前を向ける、花音ちゃんは、いいコだよ」



相変わらずのやさしい微笑みと、その言葉に。きゅうっと、胸が詰まる。

わたしは堪らなくなって、涙ぐみそうになる顔を見られないよううつむきながら、小さく口を開いた。



「あ、ありがとう、ございます……」

「……うん」



せんぱい。奏佑先輩。

──あの日、わたしを助けてくれた人が。

そしてこの部屋のドアを開けた人があなたで、本当に、よかった。