「なんか先輩、キャラ違います……」

「そりゃあね。今までは、『かわいい後輩』向けの対応してたから……今度からは『彼女』向けの対応するんで、よろしく」



言いながら満面の笑みを浮かべる彼に、わたしはほんのちょっぴり、一抹の不安を覚える。

そんなわたしの頭を最後にもう1度撫でてから、先輩はようやく体を離した。



「とまあ、学校でいちゃつくのはここまでにして」

「い、いちゃ?!」

「とりあえず今は、一緒に帰ろうか」

「……はい」



そう言ってカバンを持った先輩に、素直にうなずく。

ちゃっかり彼のズボンのポケットにしまわれていたあの恥ずかしいルーズリーフを見逃さなかったわたしは、どうやってそれを回収しようかとぐるぐる考えつつも、当初の目的だった楽譜をカラーボックスから抜き取った。



「ふふ、なんか企んでるでしょ」

「……そんなことしてませんよ」



くすくす笑いながら、先輩がまたわたしの頭を撫でる。

ぷうっと頬をふくらませるわたしの視界に、すっと、手のひらが映った。



「ほら花音、行こ」

「……はい」



思わず、笑みを浮かべて。

差し伸べられたその大きな手に、自分の手を重ねた。

目の前には、だいすきな人。

その人が今、自分だけに、あたたかな微笑みを向けてくれている。


苦しくて切ない、憂鬱な初恋はもうおしまい。

──きっと、ここから。

新しいふたりの未来は、奏でられていく。










/END