「……行かないで」

「え、」

「行かないでよ、花音ちゃん……っ」



滅多に聞くことがなかった、先輩の切羽詰まったような声に、わたしは瞠目する。

そんなわたしの頬を両手で挟んで、先輩は顔を上向かせた。

切なげに歪められた瞳と、視線が絡む。



「……子どもみたいなわがままだって、自分でもわかってるよ。……っだけど、離れたくないんだ……!」



思いもしなかった、彼の言葉。

それはいつも大人びて見えていた先輩とは、まるで違っていて。

だけどわたしの胸の鼓動を、簡単に速くさせる力を持っている。

苦しそうに、先輩は続けた。



「3年、なんて。いきなり、いなくなるなんて、嫌だ……っ」

「……っえ」

「そんな、このまま、別れるなんて……っ」

「せ、先輩っ、ちょっと、待って……!」



そこでわたしはようやく、違和感を感じて彼の言葉をさえぎった。

潤んだ瞳を向けてくる先輩に、どきりとしながらも──必死で、言葉を紡ぐ。