『なんで花音ちゃん、隠すのさー』

『だ、だめです、これはわたしの、秘密なんです……っ』



もし、あのとき彼女が隠したものが、この1枚のルーズリーフだったのなら。

なんて、不器用で。

なんていとおしい、ラブレターなんだろう。



「……っ、花音……っ」



しぼり出すように名前を呼びながら、ルーズリーフを持つ手が震える。

すきだよ。だいすきだよ、花音ちゃん。


どうして俺は、たったこれだけのことに、気づけなかったんだろう。

どうしてたったこれだけのことを、伝えられなかったのだろう。

どうして俺は、この想いに気づいたとき、すぐに伝えずにいられたのだろう。


こんなにも、もう、あふれてしまいそうなほどの想いなのに。



「……ッ、行かなきゃ」



顔を上げて、つぶやく。


──伝えなきゃ。

伝えなきゃいけない、この気持ちを。

拒絶されたって。怯えられたって。

ちゃんと、まっすぐ、この気持ちを。


今度こそ俺は決意して、腰かけていた椅子から立ち上がる。

手には、1枚のルーズリーフを握りしめて。

そうして、出入口に向かって、歩きだそうとしたとき──。



「……え……」



不意にドアが、外側から開かれた。