ぎり、と、両手のこぶしを握りしめる。

……なるほど。この男は、俺と花音ちゃんが1度付き合って、だけどもう別れたことを、知っていて。

そして花音ちゃんを、自分のものにしたくてたまらないわけか。


俺は気持ちで負けないよう、覚悟を持った目で、その顔を見返した。



「……たしかに俺は、馬鹿だったな。散々、花音ちゃんを傷つけて……」



たくさん泣かせた。

たくさん、傷つけた。


──だけど。



「けど、もう今は違う。自分の本当の気持ちに気づいたから、もう、間違えない」

「………」

「……今さらもう、遅いのかもしれなくて。あの子には、まだ伝えられてないけど……だけど俺にとって、あの子は大切な女の子だ。たったひとりの、“すきな人”だ」



言いながら、前を見据えて挑戦的に見つめる俺に。

それまで黙っていた目の前の男は、ふっと小さく、嘆息した。