「そういえば、まだ言ってなかった。コンクール、優勝おめでとう」

「あ、ありがとう」



思いがけない話題に一瞬とまどって、だけど笑顔を返した。

刹くんがやさしい表情で、話を続ける。



「結構大きなコンクールだったんだってな。すげーじゃん」

「そんな……周りの人に、いっぱい支えてもらったから」

「謙遜すんなって。……あと、副賞の話も、聞いた」



彼のその言葉に、わたしは顔を上げた。

やっぱり刹くんは、やさしい笑みで、わたしのことを見下ろしている。



「夢、叶ったな。よかったな、花音」

「っうん、ありがとう、刹くん」



それじゃ、と片手を挙げて、今度こそ彼は、階段を上がっていった。

その後ろ姿を見送ってから、わたしは体の力を抜いて、手すりに背中を預ける。




『夢、叶ったな』



……刹くん、覚えていて、くれたんだね。

まだ幼かったあの頃、【将来の夢】というテーマの授業でわたしが1度だけ語った、あの夢のこと。



「……ありがとう、刹くん」



あの頃の彼と、今の彼。

そのふたりに向かって、小さく、つぶやいた。