「ごめんね。わたしはそんなに、器用に生きられないや」



そんな、わたしの顔を見つめて。

ふっ、と小さく、刹くんが笑う。



「……あーあ、完敗じゃん」



やけに明るい声音でそう言った彼は、わたしから1歩離れてから、うーんと伸びをした。



「やっぱなー、俺じゃダメかあ」

「あ、あの、刹くんがダメとかじゃ、なくて……」

「わかってるよ。……花音が、それじゃ“ダメ”なんだろ」



ニッと笑ってみせた刹くんは、両手を腰にあてて少し高い位置にある窓を見上げる。

眩しそうに、その目を細めた。



「……俺、花音には、幸せになって欲しいんだよね」

「せ……」

「絶対、ちゃんと幸せになれよ、花音」



高校生には、なんだか似つかわしくないような、大人な言葉。

だけどその晴れ晴れとした笑顔に、わたしはうなずく。


すると踵を返しかけた刹くんが、「あ、」と小さくつぶやいて、またこちらを振り返った。