言いながら腕時計を見るしおちゃんにうなずき、わたしは前を向いた。

ロビーのところで、お母さんが待っているはずだ。名残惜しくはあるけれど、どちらにしろ、ここでこのまましおちゃんとゆっくり話している時間は、あまりない。


建物の正面玄関に向かって歩きながら、しおちゃんが思い出したようにまた口を開いた。



「そういえばさ、花音、優勝したってことは……」

「ん?」

「ほらあの、副賞──……受けるん、だよね?」



わたしの反応をうかがうように、顔を控えめにこちらへと向けるしおちゃん。

わたしは、こくりとうなずく。



「……うん、受ける」

「……そっか。でも、長谷川先輩とのこともあったし……大丈夫? このタイミングで、辛くない?」



心配そうなその声に対し、わたしは一瞬目を伏せてから、小さく首を振った。



「ううん。このタイミングだったから、よかったのかも」

「……そっか」



やっぱりどこか、しおちゃんは気遣わしげだ。

わたしはそんな彼女のやさしさに感謝しながら、精いっぱいの笑顔を向けた。



「大丈夫。わたしは、大丈夫だよ」

「……うん、わかった」



ようやく肩の力を抜いたしおちゃんが、ぎゅっと、わたしの空いた右手を握ってくれる。



「花音。私はずっと、花音のことが大好きだからね」

「ふふっ、ありがとう。わたしも、しおちゃんのことが大好きだよ」



手をつないで、顔を見合わせて。

わたしたちは、笑い合った。