「……上村、なんでそこで花音ちゃんの名前が……」

「え? だって付き合ってるんすよね、奏さん。2週間くらい前だったか、仲良さげに一緒に帰ってるの、見たって奴結構いますよ」



無言の俺に構わず、上村は続ける。



「あのコ、綺麗だから俺らの学年でも人気あったんすよー。まっさか奏さんに持ってかれるとはなあ」



言いながら腕を組んで難しい顔をしてみせる上村に、俺は細く息を吐く。

そしてまた、背中を向けた。



「……付き合ってねぇよ」

「え? だってあのコ、たしか男苦手なんすよ? なのに奏さんと仲良く帰ってたってことは……」

「違うっつってんだろ。はい、この話はもう終わりー」



えー、と後ろで不満げな声を漏らす上村は放置し、さっさと着替えを済ませた。


……イライラ、する。言いようのないどす黒い気持ちが、体の中を支配している。

部室を後にした俺は暗くなりかけた空の下、重たい感情を抱えながら、自転車で帰路についた。