「やっ、せん、ぱ……っ」

「………」

「やだぁ……っ離して、先輩──っ!」



とうとう力づくで、抵抗していたわたしの右手を、先輩の左手が捕まえた。

壁に痛いほど押さえつけられ、思わず眉を寄せる。

ぐい、と無理やりあごを掴まれて、上を向けさせられた。



「……おとなしくしてよ、花音ちゃん」

「……ッ、」



先輩の、何の感情も映さない顔が、だんだん近づいてくる。

ぎゅっときつく、わたしは目をつぶって。

押さえられた右手を、握りしめた。



──ペチン……ッ



そんな、間抜けにも思える音が、部屋の中に響く。

息を乱したわたしの目の前には、頬を張られて横を向いたままの、奏佑先輩。

ジンジンと痺れる自分の手の感覚に気づいたとき、たった今自らが起こしてしまった行動を、ようやく理解して。

ハッとしたわたしは、小さく震えているその左手を、右手でかばうように包んだ。