……本当は。

あの、どこまでもやさしくてあたたかい彼女を、傷つけたくないと思う。

そしてできれば、笑っていて欲しいと思う。

だけど今の俺がそれを叶えるのは、到底無理な話で。


彼女が、俺に幻滅するように。

そして彼女自身から、俺のもとを離れていくように。

そう考えたはずなのに、だけど俺は、こうして彼女を傷つけ続けている。


そのときふと、スラックスのポケットに入れていたスマホが震えた。

取り出して画面を見てみると、新着メッセージが、1件。



【今日、あの空き教室に来れますか?】



文面で、誰からかなんてすぐにわかる。思わずスマホを持つ手に力がこもった。



「……なに、長谷川。マジでなんかあったの?」



隣に立つ乾が、先ほどまでよりも真面目な声音で、そう訊ねてきた。

俺はスマホの画面を見つめたまま、少しだけ目を細める。



「……なんでもねぇよ」



こんなの、誰にも言えない。こんな汚い自分、見せられない。

一体、どうすることが、“正しい”のか。

ちっぽけな俺には、何も、わからなかった。