──ねぇ、先輩。

わたしを、傷つけてください。

もう先輩が、これ以上傷つかなくてもいいように。



「……ッん、」



角度を変えながらの荒々しい口づけに、ぎゅっと目をつぶる。

そのうち自分のくちびるをなぞる濡れた感触に気づいて、思わず口を開けた。

するりと、その隙間から、彼の舌が侵入する。



「んん、ふ……っ」

「……ッは、」



歯列をなぞられて、舌をからめとられて、上顎を刺激されて。

咥内を好き勝手に荒らされるその感覚に、自分のものではないような、鼻にかかった吐息がもれる。

でもわたしはその慣れない行為に応えようと、先輩の首に手をまわして、必死にしがみついた。


──痛い。痛い。

ズキズキ、悲鳴をあげているのは

一体、誰のこころ?



「せん、ぱ……っん、」

「花音、………、」



きつく閉じたまぶたのふちから、涙が一粒こぼれる。

むさぼるようなキスなのに、頬に添えられた手があたたかくて、やさしくて。それが一層、わたしの胸を切なく締めつけた。


矢印が向かい合わないまま、キスは続く。

たとえこれが、偽りの関係だとわかっていても。

わたしはこの手を、手放せない。