「いつに、なったら……忘れられ、」

「──先輩」



椅子に座ったまま、ぐっと、先輩の手を引っぱった。

必然的に近くなった顔を、目を逸らすことなく、見上げる。



「……忘れなくても、いいんです」

「ッ、」

「忘れ、なくても……わたしは、先輩のことが、すきなんです」



ただひたすら、自分の気持ちを押しつけただけ。ひとりよがりな、わたしの言葉。

目の前の人物が、顔を切なく歪めた。



「っひゃ」



だけどそれは、一瞬のことで。

次の瞬間、わたしの体は、軽々と先輩に持ち上げられていた。



「……綺麗事だね、花音ちゃん」

「せ、んぱ……」



わたしの両脇に手を添えて抱き上げていた彼は、蓋を閉じたピアノの上に、そのままわたしを座らせる。

近い距離で熱のこもった瞳と視線が絡み、思わず息を飲んだ。


つーっとじらすように、彼の指先が頬を滑る。

そのくちびるが、弧を描く。



「でもきみの、そういうところは……嫌いじゃ、ないよ」



そしてためらいもなく、くちびるを塞がれた。