「俺は、認めない。無理やり別れさせようって気はないけど、でも俺は、あの人と付き合うことで、花音が幸せになれるとは思わないから」

「……せ、」

「じゃあ。話はそれだけだから」



彼はわたしの言葉を遮って早々に話を切り上げると、足早に階段を上っていった。

ひとりになると、とたんに、休み時間の喧騒が自分の耳に戻ってくる。



「………」



きっと、刹くんには理解できないんだろう。自分のことを見ていないと知っていて、それでも、先輩の“彼女”になりたいと思うわたしのワガママ。

理解してもらいたいわけじゃない。だってわたし自身、こんなの馬鹿げてるって、ちゃんとわかってる。

……わかってるけど、止められないんだ。


じわ、と浮かんだ涙を、乱暴に制服のそでで拭う。

わたしも、ゆっくりと階段を上がり始めた。