何も言葉を発さないまま歩を進めていた彼は、思いのほか近場で、その足を止めた。

西階段の、2階と3階の間にある、踊り場。

人気のないその場所で、くるりと刹くんが、こちらを振り向く。



「──聞いた。花音、あの先輩と付き合ってんだって?」



眉をひそめたままの彼の問いかけに、わたしはまた無言で、首を小さく縦に振った。

それを見た刹くんが、ますます顔を険しくさせる。



「……なんで。あの人、すきな奴のこと、ずっと忘れられてないんだろ? そんな状態で付き合ったって、花音はそれで、幸せなのかよ?」

「……刹、くん……」

「それに花音、あの先輩には本当は他にすきな奴がいるってこと、神崎に言ってないんだな。……俺に花音とあの人が付き合うことになったってわざわざ教えてきたのは、アイツだから。そう言っとけば、俺が花音のことを、諦めると思ったんだろうな」



けど、と言った刹くんは、まっすぐな瞳で、わたしを見下ろす。