「花音!」



教室の前の、廊下。

休み時間でざわつくその空間で自分を呼ぶ声に、わたしは後ろを振り返った。

見ると少し離れたところから、刹くんが足早にこちらに向かって来ている。



「……刹くん」

「花音、ちょっといい? すぐ済むから」



一応疑問形ではあるけれど、刹くんのその声音は、わたしにひとつしか選択肢を与えていないようだ。

どこか不機嫌そうにも見える彼の言葉に、わたしは無言で、こくりとうなずいた。