「オメデトウ。機会があったら今度紹介してよ」

「……誰がするか」



思いっきり、呆れたような表情は崩さない。

そう言った俺を、やはりまどかは笑顔で見返す。

そして「じゃーね」と軽く手を振ると、何の迷いもなく部屋から出て行った。


まどかがいなくなったことで、また、静寂が部屋に包まれる。

そうして思い出すのは、あのとき泣きながら俺に縋り付いていた、花音ちゃんの姿だ。



『すきにならなくても、いいです……っそばに、いさせてください……!』



震える肩。ワイシャツを掴む小さな手。

重ねたくちびるは、涙の味がした。

あれは全部、俺のせい。……俺が傷つけて、泣かせて……そしてまたさらに、傷つけようとしている。

やさしさでもなんでもない、最低な、選択をしたせいで。


部屋にひとり残されながら、くしゃりと前髪をかき上げる。

人知れず、深いため息をついた。