「そーちゃん、入るよー」



そんな言葉とほぼ同時、自室のドアがノックもなしに遠慮なく開かれた。

俺は耳につけていたヘッドフォンを外し、勉強机に向けていた上半身を背後の人物にひねる。

顔には、思いっきり不機嫌を表すことは忘れずに。



「まどか……もうハタチになったんだから、いい加減ノックくらい覚えろよ」

「うるっさいわねー。てかアンタ勉強してんの?  えらいじゃん」

「明日、古典の小テストがあんだよ」



で、なに?という意味を視線に込めながら、俺はノートの横にシャーペンを置いた。

まどかは目の前で仁王立ちしながら、手にしているものを軽く振ってみせる。



「こないだ、借りたDVD。観終わったから返しに来た」

「ああ……そのへんに置いといていーよ」



そう言って、俺はベッドの前にあるローテーブルを指さす。

まどかは素直にDVDをテーブルの上に置くと、なぜかじっと、こちらを凝視してきた。

眉を寄せて、俺はその視線を受け止める。



「……なに?」

「や、なーんでも~」



言いながら、まどかはためらいもなく俺のベッドに腰を下ろした。

彼女の体重を受けて、ぼすんと軽い音をたてつつスプリングが軋む。

まるで、子どもがやるしぐさだ。それを見た俺は椅子のキャスターを動かし、ようやく体全体をまどかへと向けた。