「あぶな……花音ちゃん、まだ寝てた方が、」



先輩の言葉は、最後まで聞かなかった。

わたしは前触れなく奏佑先輩の両肩に手のひらを置くと、ぐっと力を込めて押し倒す。

とっさのことに体勢を崩した先輩は、そのまま壁に肩や背中を軽く打ちつけて。

一瞬、顔をゆがめる。



「いって……、──」



そして彼が、次の言葉を紡ぐ前に──わたしは、自分のくちびるを先輩のそれに押しつけた。



「……な……」

「……すきです」



ぽつり、こぼれたささやき。

先輩が、目を見開く。



「先輩のことが、すきです。……すき、です」



ぎゅっと、彼のワイシャツの胸元を握りしめて。

勝手に溢れ出る言葉たちと一緒に、ぽた、ぽた、と、自分の腕にしずくが落ちる。

──ああ、わたし今、泣いてるんだ。

しずくの正体が自分の涙だということには気づいたけれど、わたしには、その涙を拭うだけの余裕もない。