「……花音ちゃん?」



奇跡みたいな声が、自分の上から降ってきた。

意識が飛ばないよう気合を入れながら、ゆっくりと顔を上げる。



「う……っわ、花音ちゃん顔面蒼白!」



階段の3、4段上からこちらを見下ろしているのは、自分が1番欲しいと望んでいて、そして望んではいけない人の姿。

奏佑先輩は慌てたように階段を駆け下りると、わたしの横にひざをついた。

包み込むように、今にも崩れ落ちそうな体を支えてくれる。



「花音ちゃん、聞こえる?! 俺のことわかる?!」

「せん、ぱ……」

「ごめんね、ちょっと我慢して」



やはり焦ったような声でそう言ったかと思うと、先輩はわたしのひざ裏と背中に手をまわした。

そして軽々と、わたしの体を持ち上げる。



「花音ちゃん、軽っ! もっと食べなきゃダメだよ」

「せん……」

「ごめんね、保健室着くまで我慢してね。力抜いてて大丈夫だから……階段下りるよ」



そうささやいて、先輩はゆっくりと階段を下り始めた。

わたしは信じられない思いで、だけど何も言えずに、ただ先輩の腕に身を任せる。