俺は彼女には見えない位置で、ぎゅっと両手のこぶしを握りしめる。

そして何でもないように、また口を開いた。



「……ねぇ花音ちゃん、またクイズ出してよ」

「ふふ、そうですねぇ。……それじゃあ、いきますよー」



彼女の綺麗な指が、なめらかに動いてメロディを奏でる。

その心地良い音色に耳を傾けていると、不意に花音ちゃんが、動かす指は止めないまま、言葉を紡いだ。



「……奏佑先輩、は」

「ん?」

「先輩は、……すきな人、いますか?」



ギクリと、心臓が嫌な音をたてた。

知らず知らずのうちに、俺の右手は、生徒手帳が入っているスラックスのポケットに触れていて。



「……いるよ。もーずっと、片思い」

「……そう、ですか」



つぶやいた彼女の横顔は、長く落ちる髪に隠されて、よく見えない。

俺のことも、今、見られてなくてよかった。

だってきっと、ひどい顔をしているから。


陽の当たる室内。少し汗ばむくらいの気温。少しだけ開けられた窓。

ピアノの音は、鳴り止まない。