先に口を開いたのは、先輩の方だった。



「ごめん俺、いきなり来といてでしゃばっちゃって」

「え、あっ、そ、そんなこと……っ」



慌てて首を横に振るわたしに対し、先輩は苦笑する。



「んー、最初はさ、告白かなって思ったんだけど……それにしてはなんか、雰囲気変な感じして」



そこで、ハッとする。

先輩のこの様子だと……わたしのすきな人の話のくだりは、聞かれていない?

無言のまま、内心では安堵しているわたしに、先輩はさらに続けた。



「ごめんね。ほんとにお邪魔だったなら、申し訳ないな」



そう言って、顔を覗き込まれる。

わたしはまた、ふるふると首を振った。



「そんなこと、ないです。……助かり、ました」

「そ? ならいいんだけどー」



言いながら、奏佑先輩は何やらスラックスのポケットをごそごそしだした。

そこからスマホを取り出すと、ディスプレイを確認する。



「もうすぐ、昼休み終わるね。俺らも教室戻ろっか」

「は、はい」



ふたり並んで、正面玄関への道をたどる。

歩きながらもう一度、お礼を口にした。



「あの、奏佑先輩。本当に、ありがとうございました」

「はは。いーよいーよ、俺が勝手にやったことだし」



そして不意に、じっと先輩がわたしを見下ろしてくる。



「え、あ、あの……」

「……花音ちゃんは、もう少し、警戒心を持つべきかなあ」

「へ……?」

「あー、いやいや。ごめん、何でもないよ」



先輩は曖昧に笑って、再び前を向いた。

その横顔を盗み見ながら、わたしの頭の中では、先ほどの刹くんの言葉が反芻していて。



『あの人、すきな人いるんだよ。まあそれも、叶わぬ恋、ってやつみたいだけど』



──ねぇ、先輩。

恋って、どうしてこんなに、苦しいものなのかなあ。